既に大分日が経ちましたが、2018.7.10では閉じ込められた全員が救出されたとのこと。救出は、イギリスのCaver チームにより潜水を含めた救出劇で要救助者はFlexible Stretcher (柔軟に変形できる担架)に括り付けて運んだとのこと。
パニックを防ぐために精神安定剤などを投与して昏睡状態にして運んだとのはなし。
この辺、日本だと賛否両論を呼ぶところなのだが、実行力を重視した英国のCaverおよび現地のタイの方々の英断に敬意を送りたい。
日本では専門家(?)を名乗る者も「潜水は危ないからやめた方が良い」と断じたぐらいだが、他に救出手段を出せないような状況。
当初、水深が30m にも及ぶなどというような情報があったりして
さすがにそれは危ないかと思ったものの、情報錯綜なのかその後そのような地形の話もなく、更には水位が下がったのを機に、救出に向かったとの話だ。
救出にあたり、一人の救助ダイバーが亡くなってしまった。呼吸用のタンクを運搬中に倒れていたとのこと。このダイバーは元タイの海洋特殊部隊のダイバーだったようでボランティアで参加していたとの話。なのだが、日本のこれまた専門家を名乗る者は、この亡くなったダイバーが「残圧管理もできずに」などとなじっているのを聞いてがっかりした。実際そのダイバーがドライエリアで倒れていたこと、そしてそれが酸素欠乏であったことから類推するに洞窟内の酸素濃度が低下している疑いがもたれ、21% → 15% まで落ちている、との情報から救出までの時間に猶予がない、ということに火が付いた、とも想定できる。(実際そうも言われている。)
洞穴内が入り組んだ状況になっており、ドライエリアのガスが呼吸ガスに適している状況なのか、それがエリアによってどういう酸素濃度になっているのか?有害ガスが増えているのか?人が入り込んだことによって換気不十分、途中、浸水した水により閉じられたことによって、安易に呼吸してはいけないエリアに変貌していたのかもしれない。
ここで一つ言っておくと、低酸素ガスを吸った場合、呼吸によって本来吸収されるはずの酸素(血中酸素、細胞内酸素までもが)が逆流、吸い出されて体内→体外に排出されてしまい、ブラックアウトする、という危険性がある。これはもはや毒ガスと一緒だ。息を止めて我慢しているなんてレベルではなく、血中酸素が不足して人体が細胞レベルで活動停止をしてしまうということがモノの数十秒で起きてしまうということだ。これは恥ずかしながら私自身が実体験をしているので分かることなのでもあるが….。
人は二酸化炭素過多により苦しさを覚えるが、単なる酸素不足である場合は、苦しむことなく、体が機能停止、シャッターが下りるかの如く気を失い、そのまま脳停止、心停止が起きてしまう。
可能性であるが、そういった状況かもしれない。ダイバーとしての残圧確認ミスではなく洞窟内でのガス濃度チェック環境管理までできていたのか?という事でもある。
この辺りは、海洋ダイバーのみならず、セノーテなどのように水中のみのCave 内移動のみを行っているCave Diver の知識ではあまり経験もないケース(意識している人はいなくもないが…)で、ドライケーブや時に有害ガスが噴出する危険地帯での洞穴などという特殊環境などの知識、また、環境を見る限り、クライミングエリアがあったり、流れ込んでいる沢を登る沢登の知識など複合的知識が必要となり、このような広い知識を持ったものが日本にはおそらく皆無なのでは?などと個人的には思ってしまう。(そのような話もなかった)
私の知り合いの多くでCave Diver の方々はよく知ってはいるが、その環境と今回の環境ではそういった差異があり、多くの日本のDiver(Cave Diver含む)がその環境での想像力、対応力はないのかもしれないと思っている。むしろ私のクライマー仲間の方が有用な方法論を組み立てられたような気もしている。
また、今回活躍したイギリスのCaver の方々は、潜水知識もあり、そして洞穴内登攀技術も持っているものと思われ、この分野では世界でも抜きに出ていることが示された結果でもあるように思えます。
今回の救出に従事したイギリスのメンバーは、
「I’m not hero…」
と言って黙って帰ろうとしたとの話もあるそうだ。インストラクターだとかそういう自慢・宣伝をすることなく、やるべきことをやったまで、というような武士道のような(イギリスだと騎士道か?)志を持ったすがすがしい人たちだとも思える。「義を見てせざるは勇なきけり」といったところか?
こと、インストラクターだとか、経験本数、年数がどうたらこうたらとか、そういうことで人を威圧するような日本の業界とは違い、それぞれが真摯ににプロアマ問わず技術向上に向き合い、リスペクトしあう、そういうすがすがしさを勝手ながら感じた。
私もかのように志していきたいと思う。
なお、今回の救出劇に私が使っている Sidemount CCR SF2 なども参加していたようだ。
昨今は、著名なCave Diver である
クリスタルケーブ開拓のBrian Kakuk (Kiss Sidekick mCCR),
Cenote 開拓者 Razor 開発者である Steve Bogards (Liberty Sidemount eCCR)
などもCave Explore に Sidemount Rebreather を使い始めている。Sidemount CCR については私も使用して3年を過ぎているがかつて周りから「あんなもの使えない、カッコだけだ」
「ベイルアウトリブリーザーとしてつかうもの」
などと邪道扱いされてきたが、私はこれはうまく使用すれば主戦力になるものだと確信して今まで来た。実際、今回の救出劇でどこまで活躍したかは定かではないが、極狭環境での使用ではコンパクトなSF2 は運搬も含め有利に働くこともあったかもしれない。
この点、可能性は侮れないと過去にも記事をいくらか書いたがSidemount CCR についてはいくつかタイプがあって、それによって差異が出るためこれから先場合によってはSidemount CCR/SCR からさらなる分岐、細分化が出てくるかもしれない、とか思ったりもします。